葉桜

 先日、作家・佐藤愛子の代表作『血脈』を模写していて、「葉桜」という言葉が出てきた。葉っぱになった桜でしょう、といわれればその通りで、何もいえなくなってしまうのだが……。

  東京、神奈川の都市部では3月の終りになって桜が咲きはじめ、4月に入りやがて満開の時を迎える。その花びらが散りはじめると、今度は若葉が芽吹く。桜は、薄ピンクが樹木全体を覆いつくす様相から、新緑の中に紅色が顔を覗かせる状態へと変化していく。花びらがすべてなくなり、雄しべ、雌しべもやがて全部落ちてしまうと、桜からはすっかり赤みがなくなり、新緑オンリーの姿となる。葉桜というのは、若葉が顔を出してからこの新緑づくしの姿となるまでを、そう呼んでいるのだ。

  千葉の片田舎で暮らす愛子は、洽六(作家/ 佐藤紅緑)の終の住まいである上馬の邸へ時々通っている。医者から父の余命を宣告されていたからだ。桜のつぼみのほころぶころ、わが父はあの世の人になっているだろうと、愛子は覚悟した。そう思い涙しつつ、遠路上京しては世田谷の桜並木を歩く愛子だったのだ。最愛の父親の寿命をはかない桜のつぼみに託すこの場面は、涙なくしては読めなかった。

  が、ふと気がつくと、桜はすでに葉桜となっていた。一時的だが、洽六の容態がもちなおしたのだ。

  風流とは無縁の私にとって、この葉桜というのは、はじめて知る季節の味わいである。

 了


同人誌 随筆春秋 などのご紹介

同人誌 随筆春秋 は現在3人の先生方からご指導をいただいています。

◆作家 / 直木賞受賞・紫式部文学賞受賞など

 佐藤 愛子先生 …… 代表作品:小説『戦いすんで日が暮れて』『血脈』『晩鐘』など

◆テレビドラマ / 演出家・プロデューサー・映画監督など

   堀川とんこう先生 …… 代表作品:TBSテレビドラマ『岸辺のアルバム』『モモ子シリーズ』『松本清張シリーズ』など

◆脚本家 / 旭日小綬章受章・紫綬褒章受章など

 竹山 洋 先先 …… 代表作品:NHK大河ドラマ『秀吉』『利家とまつ〜加賀百万石物語〜』など 

◆ 小倉 一純 の師匠 ⇒ 近藤健 先生(作家 佐藤愛子先生の愛弟子)

 先年、随筆春秋の近藤健先生は 30 年近く続けた東京生活を仕舞われ、故郷の町のある北海道へ戻られた。大手石油販売会社の本社を離れて、現在はその札幌支店に勤務されている。ご家庭の事情で転勤願いを出していたのだ。近藤健先生は、会社員と文筆家の二足のわらじを履いた、日本一のサラリーマン作家である。

 2017 年、縁あって随筆春秋の同人となることを許された私は、10 編近い作品を札幌の近藤先生に添削していただいた。「よく書けています」と寸評があるものの、原稿をめくるとそこかしこに朱が入れられている。勉強していくうちに赤ペンの箇所はだんだん少なくなっていき、それが私にとって何よりの励みとなったのである。

 先日、近藤健先生よりこのホームページへコメントをいただいた。―― 機が熟し、花開く日を楽しみに待っております(一部を抜粋)…… とつづられていた。感激である。

 その近藤先生が師と仰ぐのが、随筆春秋の大御所でもある 直木賞作家の 佐藤愛子先生 なのだ。

◆近藤健先生 作品集 ⇒ こんけんどうのエッセイ(プロフィールページ)

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