笑説 神威電気の松下さん

ボクはいまから30年前、神威電気株式会社というところで働いていた。名古屋の私大を卒業し、就職試験を受けて入った。


社長はもう大分、歳を取っていたので、社内では翁と呼ばれていた。 


その翁の邸宅は、名古屋市内の八事にあった。ヤゴト、と読む。東京でいえば田園調布か成城学園にあたる。


この翁のところの奥様が中心となって、行儀作法見習いのようなことが行われていた。創業者でもある翁の邸宅へ、通いか、場合によっては住み込みで世話になり、炊事、洗濯、掃除、琴、日本舞踊、生花など、さまざまな事を教えてもらう。


そんなわけで、この神威電気名古屋本社にも、縁あって翁のところで勉強した社員が、何人か在籍していた。その内のひとりが、1階の受付に座っている。彼女は、女優の松下奈緒を彷彿とさせる美人だ。


その松下さんにボクら神威電気知多営業所のメンバーが話しかけたときのことである。


「ねえ、松下さん、受付の前はどこにいたの?」

「わたしぃ、前は、オゴトで働いていたの」


メンバー一同、大爆笑である。先輩の女子社員に、自分の間違いを指摘されたうら若き松下さんは、顔を真っ赤にして俯きながら、化粧室の方へ走って行ってしまった。


オゴトというのは雄琴と書き、実は琵琶湖のほとりにある、巨大ソープランド街である。



小倉一純



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