まじで思う僕


「まじで思う僕」


今から40年前、僕が大学生だったころ、作家はまだ世の中のオピニオンリーダーでした。 

世の中では、総論から各論を語る。方向性でいえば「上から下へ」の思考が普通だったからです。 

ちょうどそのころ「行動科学」という学問が注目されるようになっていました。方向性でいえばそれとは真逆の「下から上へ」の思考をするのが行動科学です。 

心理学の場合でいえば、それまでは、脳や心の働きを研究し、その末節として行動が起こる、という流れでした。 

ところが行動科学では、末節の行動をつぶさに研究することで、その上流にある、心や脳の働きを解明していきます。 

この分野では当時、千葉大学が有名でした。本も出ていましたし、NHKで特集が組まれたりしました。 

僕が通っていた大学にも、文学部行動科学科というのがあり、実験動物を飼育しながら、学生や院生が研究をしていました。それを、心理学や社会学などに応用するのです。 

「へー、文系にも実験動物がいるんだ」 

と、経済学部でぶらぶらしていた僕は思いました。 

果せるかな、現在では、ものの見事に、「下から上へ」という方向性へ、考え方の主流がシフトしていますよね。 

偉そうな総論を述べても、各論として、さまざまな知識や技能を持たないと、世の中を渡れない。モバイルやパソコンを使えることはもはや当たり前。 

会社でも、僕が新入社員のころは、総務部が幅を利かせていました。総務部には人事課もあり、ある意味、会社を牛耳っていました。そんな総務部員のお父さんが愛娘に質問されました。 

「総務でいったい何の仕事してるの? お父さん、資格も持ってないでしょっ」 

「バカいうなよ。お父さんの場合はなっ、れっきとしたジェネラリストなんだ」 

今ではこんなことをいうオヤジはいない、と思います。世の中、すっかり変わりました。 

政府でも、下から上へ、の流れを牽引するであろう、理科系に重点を置いています。 

ですが、時代の大きな転換点に差しかかったとき、方向性を定めるのは、やはり、上から下への流れを牽引するであろう、哲学や芸術や文学なのではないでしょうか。 

僕はそんな風にまじで思っています。 

了 

2022.09.19 

小倉一純 

※行動科学って、学問分野というよりも、手法のひとつなんだと思います。


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