朝比奈豊氏

野坂昭如邸のすぐ隣に、青田君の家があった。彼は、同級生だ。高校を卒業して2人とも、代々木駅前のマンモス予備校に通っていた。彼とは、その代々木駅の中にある小さな居酒屋でよく飲んだ。「あっちゃん」という看板のかかった店だ。5人も座れば満席となる、小さな焼き鳥屋だった。


カウンター席の正面には小さな窓があり、そこから線路が見えた。ターミナル駅の新宿も近く、軌道の幅はかなり大きい。駅の保線区の助役や、近くへ仕事で来たという美大出の広告プランナーなど、いろいろな客とも言葉を交わした。


青田君の家は杉並だったから、練馬にある僕の実家よりも近い。そんないい加減な理由で、酔った僕は青田君の家に何度か泊まりに行った。


朝起きて彼の家を出ると、野坂昭如邸の前に30歳を少し回ったぐらいの、背広を着た紳士が立っていた。作家の家に用事があるのだから、出版関係だろう。その後も何度か顔を見かけた。


毎日新聞社の朝比奈という人が、野坂昭如氏の当時の編集者だったという情報を、つい先日、小耳に挟んだ。元会長の朝比奈豊氏のことではないかと思う。

2021/10/04 加筆修正

小倉一純


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