理想郷

 明日は雛祭りという週末に、高校時代の同級生数名が集まった。酒と料理を用意して、わが家で酒宴を催したのである。彼らとはここ数年、年に1度は顔を合わせている。有り難いことに、費用は割り勘だ。

 彼らは所帯を構え仕事を持っている。尤も、我々も還暦となったので、そろそろ引退を考えている仲間もいる。会議ではないから、議題などはない。思いつくままに勝手な話をするのである。終われば次の話題へ移る。馬鹿話の類も多いが、それがまた楽しいのだ。

 1次障害で発達障害、2次障害に統合失調症を持つ私は現在、作家となるべく勉強中である。小説家は、中学の頃から憧れの存在だ。そんな私が一番困るのは、自分の立ち位置の認識である。恋愛をして家族をつくるとか、一生の仕事を持つ、という点において、私は失敗している。病気の影響もあり頓挫したのだ。家族の中での役割、会社や社会での立ち位置というものを、肌で感じることのない生活を送る私にとって、彼らの、発言も含めた一挙手一投足は、とても役に立つ。

 私は毎日必ず、原稿用紙で5枚は書くようにしている。腕を上げるための習作である。引き籠って物を書き、時々友達の来る私は、物を書くことを第一に考えれば、理想郷に身を置いているのかも知れない。  了


2019/03/06

小倉一純


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