今日の犬走り

 朝の運動で庭の犬走りを行くと、文字通り歩きではなく走りになってしまう。腰を落として音を立てず忍者走りのような態になるのだ。ここ1週間、私はそんな運動を続けている。

 最近、或るスーパーへ通っている。埼玉県の小さな八百屋が起源なのだとか。この特徴は惣菜だ。ピカイチなのである。我家では朝は作るが、夜は惣菜を利用している。私は4階の屋上駐車場に車を停める。そこからは京王線の車両基地を眼下に見渡すことができる。遠くへ目を遣ると正面には富士山、その手前に広がるのは丹沢山系である。その向かって左の端が豆腐で有名な大山だ。花粉の季節である。大気は霞み日本一の山を拝むことのできる日は多くない。スーパーは建物の1階である。私はエスカレーターもエレベーターも使わない。買物が終わって階段を上がると、3階へ来たところで決まって息が切れていた。それが今ではなんともないのだ。やはり足腰は使わないといけない。

 今朝は向かいの長男がどこかへ出かけるらしく、愛車を我家の犬走りの横へつけた。犬走りは道路に面した狭い通路である。ちょうど私が朝の運動を始めたところだった。1周目、長男と目が合い挨拶をした。2週目、私が通ると彼はアレという顔をした。3週目は明らかに訝し気な表情となった。その内、見送りのお父さん、お母さん、お姉さんもやって来て、私はそこを10回以上忍者のように通り過ぎた。

 いつも通りの、平和な朝であった。

 快走しながら頭に浮かんだ。犬走り、という日本語に対し、英語圏ではキャットウォークというのがある。日本語にすれば、猫歩き、だ。地名や人名には、猿渡、というのもある。どうして、犬は走り、猫は歩き、猿は渡る、のだろうか?

 そんな愚にもつかぬことを考えながら、今日も私は、犬走りを行く。  了


2019/03/30

小倉一純


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