身内が増えた

― もう1万円入れよう ―


 親戚の医者の話はしたことがあると思う。28 歳か9歳になるのだが、刀城大を出て医者になった従妹(いとこ)の娘 ―― いとこ姪(めい)というらしい ―― がこの度、結婚をする。

 その従妹姪だが、すでに大学のある前川市に居を構え、3人で暮らしているというのだ。お相手は同じ大学の出身で、現在刀城大病院の救命医として働いている。30 歳だ。映画「海猿」の伊藤淳史を思わせる風貌で、いい先生という感じがする。それと生れたばかりの女の赤ちゃんである。

 それで両親宛てに結婚式の案内が来た ―― 親戚には現状を報せてあるので、僕宛にはそういう案内は来ない …… のだが、ご祝儀袋にいくら入れようかという話になったのだ。父は見栄を張って5万円といった。

「無為徒食(むいとしょく)のわれわれが何をいうんですか、お父さんっ」

 といって僕が反対をした。僕ら家族は、基本的には、年金暮しなのである。結局その場では2万円ということで話に折り合いがついた。

 現金書留にご祝儀袋を入れて送るのは僕の役目である。僕は自分の会社生活のとっぱじまりが総務部経理課だったので、こういう仕事が意外と好きなのだ。

 ところで今、はたとある事実に気がついたのである。僕は結婚していないので子供もいないが、この女の赤ちゃんというのは、僕の身内では、初めての孫世代ということになるのである。両親から見れば、ひ孫世代の誕生ということになる。

 なにかとても嬉しいような、晴れがましいような、そして自分もとうとうそんな年齢になったのかという感慨が、ジワジワァーッと湧いてくるのである。僕は手元の祝儀袋を見つめながら、そのもう一方で、自分の財布へチラチラと視線を送っている。

 うっうっうっ…… 、もう1万円入れよう!

 梅雨の晴れ間をにらみながら僕は、こんなことを心に決めていた。


2019.06.28

小倉一純



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