上木啓二先輩

 上木啓二さんの『襟裳岬』を買った。貧乏性の私は古本を買うことが多い。申しわけないことだが今回もまた、上木さんの印税収入には寄与していない。

 上木さんは若いころから文学に関心があり、そのままつき進んでいればこの道の人間になっていたかも知れないと書いている。大学も早稲田、明治に学んだ。将来の進路を決めるころすでに学生結婚をしていて、先の見えない文学の森へ分け入るのがためらわれ、結局勤め人になったのだと上木さんはいう。奇しくも、勤め先は印刷会社だった。心ひそかに文学をめざしていた学生時代の人脈に引かれて――、という構図が見えるような気もする。

 上木さんには、小学生の時分から、評論文などを書いてはご褒美をもらっていた経緯もある。いまのようにインターネットでもあればまた、上木さんの人生も違っていたかも知れないと私は思う。昔は飛び込まないと何も分からなかったのである。つい先日還暦を迎えた私の時代でもそうだったのだから、その私よりひと回り以上も上の上木さんの世代だったら、なおさらであったはずだ。

 還暦を目前にして病に倒れ、それが契機となり再び筆をとるようになり、同人誌 随筆春秋とも出会われた。そして現在は、その随筆春秋の運営側のひとりでもある。

 これから、エッセイ集『襟裳岬』の中の、同じ題名の代表作を読ませていただく。戦争で亡くなったお父様の思い出の綴られた作品である。


2019.09.13

小倉一純

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