上から目線、下から目線

 私は発達障害である。ただ、大人になるまではそのことに気づかず、健常児として育った。私はもうひとつ、ADHDというのを持っているらしい。同じ発達障害の仲間で、注意欠陥多動性障害という。舌をかみそうな長い名前であるが、女優の渡辺えり子も自分がADHDであることをカミングアウトしている。要するに、子供のころからそわそわとして落ち着かず、真剣に授業をしている先生の話など聞かず、通りを走る焼きイモ屋の軽トラックを、どこ吹く風で眺めていた――、ということなのである。

 私は還暦を迎えた大人なのだが、実は私の中には、もうひとりの自分がいる。いつまで経っても歳をとらない子供の自分である。二重人格というわけではない。私という人間の中には常に、大人と子供が同居しているのである。ADHDというのは、どうもそういうことらしい。

 面白くていいじゃないか、ともいわれそうだが、これでなかなか困ったことが起きるのである。簡単にいうと、「上から目線」と「下から目線」の使い分けに失敗してしまうのだ。つまり、自分の中の大人と子供の出番がちぐはぐになっているのである。

 明らかに自分の方が詳しく、エキスパートであると分かっていても、目の前の、それには詳しくない人に、下から目線で小学生のように、そのことを説明してしまうのだ。結局、私の説明は伝わらず、目の前の人にも信用されない。

 家へ帰った私はストレスを抱えて「あぁーあっ」、とため息をつくのである。


2019.09.19

小倉一純


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