女医の早宮さん

 早宮さんという女医がいて、フェイスブックの友達登録も済ませている。この早宮さんというのは、実は私の高校時代の同級生で、同じ硬式テニス部の仲間でもあった。還暦も迎えて、何十年か振りでフェイスブックで言葉を交わしたのがうれしくて、私は調子に乗ってタメ口を利いていた。

 すると早宮さん、私とは関係のない別のスレッドでコメントしていた。

「私、このあいだ区役所へ行って、早宮さんって呼ばれてたんだけど、ぜんぜん気づかなかったの」

「……」

「だって、私いつも早宮先生って呼ばれてるでしょ。だから早宮さんって声をかけられると、どうしても自分のことだって思えないのよ」

 それからしばらくすると、やはり私と友達登録を済ませた福助君が、早宮さんにコメントを送るとき、必ず「早宮先生」とやるようになっていた。彼女にとっては福助君も、私と同じ高校の同級生である。彼は会社ではものすごく出世しているらしい。

 さすがの私も学習して、昨日フェイスブックで「早宮先生」とやってみたら、予想以上に機嫌のよい返事が返ってきた。


2019.09.26

小倉一純


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