世代間の溝

 社会に出ている皆さんはこんなことは肌で分かっているんだろうと思う。昔、学生運動が盛んだったころは、20 代と 30 代の間に世代間の溝があったそうだ。現在は 50 代、60 代以上と、それより若い世代との間にそれはある。要はバブル景気を経験した世代と経験しない世代という対極なのである。

 そういえば、あまりにもひどいマンション勧誘を受けて、その本社に電話で苦情をいったら、30 代後半の営業課長がウチへ謝りに来た。で、世間話として、ボクと父親がベースは年金暮らしであることを告げると、彼も自分の老後は心配だったらしく、話は年金の具体的な金額にまでおよんだ。年金というのは、いま 60 歳のボクがバブル崩壊前に加入した個人年金のことと、高齢者である父親の厚生年金のことなどである。

 ここで突然の主客転倒である。今度はボクが怒られる立場へ回ってしまったのだ。

「僕らは、あなた方ほど年金がもらえないことは分かっているんですが、お宅で実際の話を聞くとやっぱり腹が立ちますよぅ」

 ボクのかけた個人年金はその率が破格に高いし、父親の公的年金もいまより率が高かった。バブル崩壊後のいまではそんな条件は夢のようである。彼は真顔で怒っている。もらった名刺を見ると、彼の会社は立派な上場企業である。

 いまの 20 代、30 代から 50 代、60 代以上を見ると、まったく異質な存在で、極端なことをいえばエイリアンを見るように感じるらしい。逆もまたしかりであるという。バブル景気経験者は右肩上がりの世の中を見ながら生きてきたし、一方バブルを経験していない世代は、そんな上げ上げの空気など知らない。双方のもつ文化はおのずと違う。近ごろの、異世代間のコミュニケーション不足もそれに拍車をかけている。

 私の所属する純文学の同人代表は 50 代だが、私がバブルの経験を書いたら、代表自身は喜んでそれを読んでくれた。が、奥様はまったく淡泊な反応であったという。奥様はまだ 40 代である。バブルのことは身をもって経験していない世代なのだ。

 そうかっ、バブルがいまの世の中を説明するひとつのキーワードになるんだ、と私はテレビの番組を見ながらしきりにうなずいていた。


2019.10.04

小倉一純


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