巣鴨フレンズ
同人の代表にいつも口を酸っぱくしていわれている。「いいですか小倉さん、読者の半分は女性なんです。それと、戦中派を敵に回しては、われわれは立ち行きませんよ」
同人というのは純文学の同人である。私はそこでエッセイなどを書いている。年2回はお洒落な装丁の同人誌も発刊される。その読者の半分は女性で、同人の会員には戦中派も多くいる。そういう方々の機嫌を損ねるような作風の文章を書きなさんなよ、という代表のアドバイスなのである。
さて、私はいい歳をして独身である。もとい、私は先日還暦を迎えたが、どういうわけかいまもって独身である。同級生の中には、離婚したり連れ合いに先立たれた女性もいる。そういう女性とつき合ってみてはどうかという話もあるにはあった。あるとき、私の年齢になったら同世代の特定の異性とは人生の終盤を寄り添って歩く心の友となるのだ、と忠告された。――何しろ私は 30 代以降、女性とはとんと縁がなく、従って還暦となった女性の生態などまったく知る由もないのではあるが……、そのときわれわれは酒を飲んでいて私はその友に、
「巣鴨フレンズなんて真っ平ご免だよ!」
といってしまった。
巣鴨フレンズの巣鴨とは、あの有名な「おばあちゃんの原宿」のことである。フレンズとは文字通り「友」のことだ。彼は困ったような顔をして黙ってしまった。同人の集まりでこんな発言をしてしまったら、女性と戦中派の会員からは間違いなく総スカンを食うであろう。
が、私はまだ色つきの人生が送りたいのである。われながら困ったものである、とは思うのだが。
了
2019.10.04
小倉一純
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