プラットフォームに滑り込む

プラットフォームに滑り込む、というのは小説などによくある表現だ。この場合、東急とか京浜急行のスマートな車両を連想する。だが、「白い湯気を吐きながら、雪の積もったプラットフォームに、黒い蒸気機関車が滑り込む」と書かれると、どうにも違和感がある。


すでにかなり速度を落としている。ホームへ入線すると、蒸気機関車は白い湯気を吐きながら、断続的に蒸気圧ブレーキをかける。すると客車と客車の連結部分がギクシャクと金属音を立て始める。やがて大きな車輪がガタンゴトンと音を立て、重かったよ、とでもいいたげな様子で、機関車は停止する。


蒸気機関車の場合、こんな無骨なイメージではないだろうか。


力行は解除したが、結構なスピードでプラットホームの先端に差しかかる。車両は回生ブレーキを作動させている。モーターからはヒューンという音がして減速はとてもスムーズだ。連結部分がギクシャクすることもない。停止線に向けて辻褄合わせをするかのようにピシューピシューとエアーブレーキの空気が抜ける。やがて静かに車両は停止する。


首都圏の私鉄の場合、あくまでもスマートだ。こちらなら、プラットフォームに滑り込む、という表現も相応しいと僕は思う。


2021/10/01 加筆修正
小倉一純


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